2024年1月6日(土)からスタートの『正宗十哲 ―名刀匠正宗とその弟子たち―』展、初日に行ってきました!
正宗十哲 ―名刀匠正宗とその弟子たち―
東京・両国にある刀剣博物館で開催中の「正宗十哲 ―名刀匠正宗とその弟子たち―」展。日本刀よく知らんねんって人でも名前は聞いたことある率上位の正宗、その正宗の弟子や影響を受けた刀工とされる「正宗十哲」を特集した展示です。これまで正宗の企画展は数あれど、正宗十哲を特集した展示はこれが初めてなんだとか。
そして刀剣乱舞に登場する刀として以下の4振りも展示されます。
・京極正宗(短刀 銘正宗(号京極正宗)、皇居三の丸尚蔵館)
・稲葉江(刀 金象嵌銘 天正十三十二月日 江本阿弥磨上之(花押) 所持稲葉勘右衛門尉(名物稲葉江)、柏原美術館)
・江雪左文字(太刀 銘 筑州住左(号江雪左文字)、ふくやま美術館)
・太閤左文字(短刀 銘 左 筑州住(号じゅらく(太閤左文字) 、ふくやま美術館)
展示期間が限定されている刀はちょいちょいあるんですが、この4振りは通期で展示されています!このほかにも名古屋の徳川美術館、静岡の佐野美術館の刀なども展示されており、東京で見る機会が少ない刀が揃っています。
またこの展示は2月18日からはふくやま美術館(広島)にも巡回する予定です(内容は変動するかもしれませんが)。
2023年度特別展 | ふくやま美術館
開催中の展覧会 | 刀剣博物館
京極正宗
入ってすぐ、受付嬢ポジの展示ケースに鎮座ましましていたのは京極正宗。10月の金沢ぶりです(案外早い再会だった)。
京極正宗って正宗としてはザラザラ感の強い作だと思うんですけど、「則重に一脈通じる皆焼状の作式」とあり、なるほど則重っぽさ……とちょっと納得した。でも皆焼(ひたつら)の感じはよくわかんないんですよねえ、飛び焼きとかあるみたいなんですが。
昭和3年(1928)に子爵・京極高修が父・高徳の遺志をうけ昭和天皇に献上。現在は皇居三の丸尚蔵館の所蔵となっています。
短刀 銘 鎌 [倉][住]人行光 元 [亨][二]年三月
展示の第1章は「正宗の先人たち」。鎌倉時代中頃に幕府が山城から粟田口国綱、備前から三郎国宗と一文字助真を呼び寄せた(幕府のお膝元で武器を製造したかったんでしょうね)ことを基礎としてできたのが相州伝ですが、確実に鎌倉に居住したとわかる一番古い刀工は新藤五国光となります。
この門下に正宗、そして行光などがおり、これらの紹介のひとつとして展示されていたのが、この行光の短刀。
これは行光の在銘作唯一の皆焼状の作。
……とあるんだけど、わたしの認識してる「皆焼」とは少し意味が違うようなんだよな。こう、肌のうねうねが強い感じを「皆焼状」と示しているのかもしれない。それでいうとわたしは「皆焼状」がとても好きですね(則重〜!!)。
作品名が[ ]ばかりなんだけど、それはこのように穴ボコボコになってるせいです。いっぱい愛された証拠だ。
第2章 相州伝の完成者
第1章は正宗の前の世代を紹介して、第2章ではいよいよ正宗が出現。ここで書かれていた正宗の作風の説明が、もう筆を尽くしている感じでとても良かったんですよね。
「美しく並んだ沸えの粉が刃中に舞い上がり、銀の砂を流したような砂流しがかかって、さらに地鉄の中で太い地景となって力強く輝くさまはまるで刻々と移り変わる自然の景色のよう」
「あたかも水墨画の『破墨山水』を見る感がある」
……いやもうラブレターじゃん。
このコーナーでは佐野美術館の疱瘡正宗や徳川美術館の不動正宗などが展示されています。特に不動正宗は、それまで「正宗の良さってよくわかんないんだよな〜」と思っていたわたしに「そういうことか!」とわからせてくれた作。まさに先にあったように「刻々と移り変わる自然の景色のよう」なんですよね。見るたびに滝みたいだなって思うんです。ぜひご覧ください。
①来国次
脇指 銘 来国次
ここからはいよいよ「正宗十哲」のターン。正宗の弟子、あるいは正宗に影響を受けたといわれる10人の刀工とその作品を紹介しています。
来国次は「来」の名前からわかるように山城の刀工ですが、正宗の影響を受け「鎌倉来」とも呼ばれます。
今回は撮影可能な作のうち、個人的に「一番正宗みがあるな」と思うものを選んで撮ってたんですが、
この刃の中に砂が流れるような感じ、正宗みだなあと思います。正宗はもっと肌のうねうねが強いやつもあるけど、国宝の正宗なんかはこんな感じですよね。
②長谷部国重
脇指 銘 文和二二年八月日 長谷部国重
へし切長谷部と同じ作者の長谷部国重も、正宗十哲とされます。正宗の師匠である新藤五国光も「長谷部」を名乗ったとされ、関連性が指摘されます。
これも刃に入っていく筋の感じとか、正宗っぽい。それを考えるとへし切長谷部はそこまで正宗みはないよね。
2023年10月、福岡市博物館で撮影
いや飛び焼きの感じに目がいっちゃいがちでそう思っちゃうけど、よくよく見れば正宗感もあるのか……?でもまあ肌の綺麗さは相州みだなって思う。
脇指 銘 長谷部国重
前述したように「各刀工の、いちばん正宗みがあるやつ」を撮ることにしてたんですが、これはちょっと正宗み薄いけど好きすぎて撮っちゃった長谷部国重。
もう見てっ!
わっはっは!!!
笑いの出ちゃうきっさきだよおこいつあ!
見てみて、棟もガンガン焼いてんの!わけわっかんねえ!大好き!!!
長谷部、たまにこういうテンション高いやつ作るよな。
③金重
短刀 銘 金重
お次は金重、美濃の刀工です。
この肌がもっとうねってたらもっと正宗っぽいかなと思うんだけど、
何より良いのは、この帽子(きっさきの刃文)。クラックの入った水晶みたい。きれい。美濃ってもっと実用性のイメージがあるけど、本当にきれいですごいよね。
④兼氏
短刀 銘 兼氏
次は兼氏、こちらも美濃の刀工です。刃中に線が入る感じ、100点!
⑤則重
刀 伝則重(号太閤則重)
きたよ〜則重!大好きです!でもこの太閤則重は、何だかちょっと好みと違う。
ご覧の通り刃がとても高いんですよね。肌の様子がほとんどわからないの。
でもこう……写真ではうまく映せなかったんだけど、刃から刀身全体にかけて上がけしてあるような映りみたいな……映りなのかな?わかんないんだけど、角度を変えると光の模様がひらひらと翻るように見えるのです。
永青文庫の日本一則重も撮影不可で展示されてたんですが、この太閤則重と同じような光模様があった。
これ、なのかなあ。わたし則重といったら肌のうねうねが好きで仕方ないんだけど。号を付けられるほどの評価を持つ則重には光模様がある、ということなんだろうか。
太刀 銘 則重
もう1振り、撮影できる則重があったのでこちらも。そう、これがわたしの好きな則重!この肌の感じ、それが刃まで侵食する感じが大好き。
わたしこれまで日本一則重に「あんたはなんか違う……!」と思ってたんだけど、今回の展示で「あなた、そういうこと?」となれました。それはすごく良かったなって思う。
なお則重は郷と同じく越中の刀工。しかし正宗の兄弟子にあたるため、正宗の弟子としての「正宗十哲」にはなりません。まあ影響を受けたとか、近い作風とか、そういうところはあるのでしょう。
⑥江義弘
今回の展示では江が3振り展示されていたんですが、いずれも撮影不可。そのうちの1振りが稲葉江です。
江の作風について「正宗、則重に比べると地景・金筋は穏やか」「則重に見られる北国特有の黒みがない」「乱れの出入りが目立たないものの、刃中に沸えがよくはたらく」「帽子の焼きが深い」とあるんですが、「これらの美点を余すところなく示し、健全さも相まって同工極めの中で最高峰」とベタ褒めされてるのが稲葉江です。
こんなふうにきっさきの三角が全部焼かれてる(刃になってる)ので、すごく白く眩く見える。ハイブランドのハイライターのフタをパカっと開けたみたいな感じ。
イメージ:ディオールスキン フォーエヴァー クチュール ルミナイザー
まばゆい。
同じ列に大久保江、中川江も並んでいますが、稲葉江は特にこの堂々ときらきらした感じが際立ってて、特別に筆の乗った作だったんだな〜って思いました。実際は知らんけど。
⑦石州直綱
直綱は今回1振りのみの展示(撮影不可)。あんまり聞き覚えがなかったんですが、正宗十哲のひとりで石見国の刀工です。でもこの1振りだけを見た感想だと、そんなに好きな感じではなかった。正宗っぽさがわからんこともなかったんだけど、もっと振り切れてくれた方が好きかなって思った。まあ1振りしか見てないしわからんちゃん。
⑧兼光
脇指 銘 備前国長船兼光 貞和三年十二月日
長船の系譜の兼光も正宗十哲に数えられるひとり。備前かつのたれな作風です。
これは銘に年紀が入っていることもあり「兼光がのたれを焼いた初期作」「正宗出現以降の相州伝隆盛による影響が認められる」などと位置付けられている1振りです。
備前って「刃文派手!」ってなってそっちにばかり目がいって深みに至らないで終わることが多いんですけど、のたれの兼光はその点、じっくり見ることができていいなと思います。これまで兼光のことあまり意識していなかったけど(備前っぽくない備前だな〜くらいしか思ってなかった)、実装もされたことですし、これからじっくり知っていくことができそうです。
⑨長義
刀 無銘 長義
そして長義も、兼光と同じく相州備前(相州の雰囲気を取り入れた備前の系譜)として知られる刀工。正宗十哲として数えられることもありますが、正宗から直に教えを受けたとすると時代が合わないため、「影響を受けた」程度かなと考えられています。
にしてもこいつ、デカいな。
「身幅が広く大鋒、いかにも南北朝」と書かれている本作。いや全部が全部そうってわけではないと思うんだけど、長義ったやたら南北朝ヤンキー感のあるのが目に付く。
ついこういう写真とか撮りたくなっちゃうし……(でかつよ……)
それはそれとして、この刃文の感じとか正宗みなのかなと思います。でもだんだん「正宗みとは……?」となってきた感もある。
⑩左文字:江雪左文字
太刀 銘 筑州住左(号江雪左文字)
そしてやってきました、左文字のターン!左文字も筑州(九州)の刀工なので直接正宗に教えを受けたかっていうとちょっと難しいところですが、影響を受けていると考えられている刀工です。左文字の刀、ある時からガッと相州風のめちゃきれい作風になるから面白い。
ちょっと今回写真の出来がイマイチだったので、2023年3月のふくやま美術館で撮影した写真も織り交ぜています。そういえばわたしが初めて「国宝って、こういうことね……」と思ったのは江雪左文字だったんでした。
もう本当、雪の降り積もるような刃文です。わたしの好きな正宗は則重系の正宗なんだけど、これは日向正宗系の正宗だなって思う(国宝ズ)。
拵も展示アリです!
号じゅらく(太閤左文字)
太閤左文字は、所蔵元では「号 じゅらく」として管理しています。一般に広く太閤左文字と知られてるけど、それは比較的新しい呼び名で、豊臣家の資料などではじゅらくと表記されているので、そちらに沿っている形。
このキリッと尖った帽子よ!いかにも左文字って感じ。
じゅらくは棟側にも焼きがあるんですよね。光を探すのが楽しい。
「伝来」の欄にもあるんですが、じゅらくは浜松藩井上家にあった時期があります。そこの売り立てで長尾氏が購入、その後小松氏の手に渡るんですが……浜松、地元ですので、どういう流れで徳川から浜松に行ったのかなあって部分はちょっと気になっている。
短刀 銘 貞宗(名物朱判貞宗)
そして正宗十哲が一通り紹介された後、正宗の継承者として紹介されるのが貞宗。実子、あるいは弟子といわれます。この刃文の具合ったら!
ほんと、刃文が良い。でも正宗とは別種だなと思う。どちらが良いという話ではなく、別の世界観を確立したんだなって感じがする。
展示は2月11日まで
かいつまんでの紹介となりましたが、正宗十哲展、こんな感じでした。正宗以前、正宗、そして正宗以降を教科書的に知ることのできる展示です。まじ「教科書」感がすごいので、実装刀剣目当ての人も、じっくり勉強したい人も、余すことなく楽しめると思います!
なお展示品は撮影不可のものもあるので、鑑賞時はご注意を。営利目的でなければネットにあげるのも問題ないとのことでした。
また近隣のすみだ北斎美術館では侍を特集する展示の中で、刀剣類も展示中。相互割引もありますのでぜひ合わせてお楽しみください!ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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