広島県・ふくやま美術館で開催中の「名刀 江雪左文字-江雪斎、家康、頼宣が愛した刀の物語- 」を見てきました!行った日は2023年3月3日(金)。
今、ふたたびの福山へ
ふくやま美術館は割と何度も行ってるんですが、コロナ以降はめっきり行くことがなくなってしまっていました。というのも東京〜福山間を運行する夜行バス「エトワールセト」がコロナ以降ずっと運休してるんですよね。福山まで……となるとそこそこ交通費もかさむので、夜行バスがないとなると二の足を踏んじゃってて。今回も「まあ見送りでいいかな」と思ってたんですが……
撮影、できるってよ!
そう聞いてしまうと「いや行くわ」ってなっちまうんですよ。ふくやま美術館の刀剣類、小松コレクションはこれまでも撮影可能なタイミングはあったんですが、SNSは不可だったんです。今回はSNSもいいってさ〜!
ってわけで、来ました。
アサヒ喫茶
ふくやま美術館、以前の併設レストランは素朴な洋食の出るお店だったと記憶してるんですが、今はずいぶんおしゃれなご飯を出してくれるお店になっています。
福山に到着したのは昼11時すぎ。併設カフェ「アサヒ喫茶」でハンバーグランチをいただいてから、いざ出陣。
名刀 江雪左文字-江雪斎、家康、頼宣が愛した刀の物語-
展示タイトルは堂々の「名刀 江雪左文字」。過去に「山姥切国広降臨」「歌仙兼定登場」等々パンチのある展示タイトルはいくつかありましたが、今回はもうそのものズバリな上、展示コンセプトも「江雪左文字」が中心。
江雪左文字の名前の由来となった板部岡江雪斎の人となりをさまざまな資料から紐解く「第1章 名刀由緒」から始まり、江雪斎から徳川家康に献上された時代背景を探る「第2章 名刀献上」、家康の十男で江雪左文字を受け継いだ徳川頼宣(後の紀州徳川家初代藩主)の初陣と彼の刀に関する関心を紐解く「第3章 名刀参陣」。「第4章 名刀伝来」では江雪左文字が紀州徳川家で受け継がれた時代を解説し、最後の「第5章 名刀流転」にて紀州徳川家から売り立てに出されたのち、現在の所蔵元であるふくやま美術館へどのように辿り着いたかを展示します。
もう「大河ドラマ・江雪左文字」状態です。
また佐藤拓也さんが案内を務める音声ガイドも借りることができます。
刀剣乱舞コラボはないけど、刀剣乱舞関係者が内覧会に行っていたり、イラストレーターさんが自主的(おそらく)に宣伝してたり、なんかこう「ゆるっと共存してる」感じがいいなあと思ったりする。
太刀 銘筑州住左(号江雪左文字)
さてさて、江雪左文字。360°見られる独立ケースです。
目釘穴の数は愛されたあかし。
帽子(きっさきのところの刃文)はツンと尖っていて、左文字だなあってニコニコしちゃう。
「江雪」という名前に引っ張られている自覚はあるけれど、いつも刃文を「積もった雪のよう」と思います。初めて江雪を見た時から、ずっと印象が変わらない。
たぶんわたしは雪の降らない街で育ったから、なおさら雪に綺麗なイメージがあるんだろうな。宮沢賢治の文章に出てくる「天上のアイスクリーム」だとか「ほんたうのすきとおった食べ物」だとか、そういうもののイメージがある。
まだ誰にも踏まれていない、まっさらな雪。江雪左文字。
今回の展示では拵をはじめさまざまな付属品も展示されています。
黒漆塗鮫皮包鞘打刀拵
これとは別に、撮影不可の「黒漆塗鞘」も展示されていました。拵全体ではなく、鞘だけで伝わったものです。これは家康から江雪左文字を引き継いだ徳川頼宣が作らせたものと推定されており、今回「この鞘とセットだった」と考えられる柄が展示されています。これは近年発見されたもので、所有者のご厚意によって展示が実現したとか。
……いや、めっちゃしっかりした研究発表じゃん!こういう話が色々あって、わかりやすい学術発表を聞いてるみたいですごくワクワクします。
黒漆塗鮫皮包鞘打刀拵の目貫(柄のある金属の飾り)は板部岡江雪斎以前の持ち主に繋がる意匠なのではないか、とのこと。もう誰も覚えてない、江雪左文字がまだ「名も無き左文字の太刀」だった頃のなごり。果てしないタイムカプセルみたいな話だね。
短刀 銘左/筑州住(号じゅらく(太閤左文字))
じゅらく(太閤左文字)もいるよ〜!
一般的に「太閤左文字」の名前で知られていますが、これは比較的近代に使われ始めた呼び名。古い資料には「じゅらく」と記載されているため、所蔵元のふくやま美術館では「じゅらく」と「太閤左文字」を併記しています。
金襴包合口腰刀拵
派手派手な拵はゲームに出てくるのとほとんど一緒だから見てみてね(こんな布製、戦場で使ってたら一瞬で摩耗するだろうなあ)。
すっきりとした「左」の銘。
帽子のとんがり具合は江雪とそっくり!
じゅらくは初めて見たわけでもなかったんですが、写真を撮ろうと思うと「好きポイント」をより明確に探そうとするものですね。これまで気づいてなかったんですが、棟側も焼きが入ってるのか、白く光って見えるんです。
結構下の方まで光っている。不思議でトリッキーな刀だな。
じゅらくは浜松藩主・井上子爵家によって1932年(昭和7年)に売却されたんですが、その時の売却価格はかなり安いもの。というのも、錆などが出ており、あまり状態が良くなかったようなんです(その時の、写真付きの売り立て目録も展示されています)。
これを買い上げたのが長尾よね氏。美術品コレクターとしても知られる実業家で、江雪左文字などもこの人によって購入されています。あまり良くない状態で買い取られたじゅらくですが、そこからさほど時間の経っていない頃に江雪左文字とともに表に出ていたため、結構すぐに研ぎなどの手入れをしてくれていたようです。
良かったね、もしその時良いところに買われなかったり、買われても放置されていたりしたら、今頃国宝として残ることはできなかったかもしれない……
太刀 銘国宗
今回の撮影可能対象はふくやま美術館が所蔵している「小松安弘コレクション」の刀。小松安弘氏は福山市内に本社を置く株式会社エフピコの創業者で、日本刀装具美術館を経営していた会社をエフピコが吸収合併したことから、ここに所蔵されていた刀剣類の所有がエフピコに移りました。
小松安弘氏は近年亡くなりましたが、遺族によってふくやま美術館に寄贈され、「小松安弘コレクション」として所蔵・管理されています。
しっっっぶい肌が良い国宗。
この国宗もそうですが、小松コレクションのうち何振りかは、元々は江雪左文字・じゅらくなどと同じく長尾よねさんちの子でした。充実したコレクションを持ち「長尾美術館」を構えるまでになった長尾家でしたが、戦後に事業が失速し、昭和40年(1965年)ごろには所蔵品のほとんどを手放していたそうです。
明治になったら旧大名家が力を無くして、戦争が終わったら大成功した実業家も昔通りの力は持てなくて。そういう波みたいなものはこれまで何度もあったし、きっとこれからもあるんだろうね。
太刀 銘吉房
ハッッデな吉房。
刃文と刃取りがわかりやすいなあと思った。
(刃取り……研ぎによって、刃文が魅力的に見えるように施したお化粧。アイライン的な感じ)
この写真やたら上手く撮れた。スチール好きに好かれそう。
脇指 朱銘貞宗/本阿(名物朱判貞宗)
今回いちばん「あら〜……あらあらあらあら〜!!!」となったのはこちらです。
うねうねな貞宗!貞宗ってつるんと綺麗なのもありますけど、こういううねりの伴うやつすっごく好きです。越中則重が好きなので……
たぶん見たことないわけじゃないんだよなあ……名前には覚えがあるので。でもその時「好き!」って思っても3日経てば忘れますからね、写真に撮るってそういう点ですごく有効。撮影可 & SNS可ありがとうございますです。
1冊の本を読むような
今回は撮影可能な刀にフォーカスしてお伝えしましたが、その他の展示も見どころたっぷりでした。「江雪左文字」という1冊の本を読むような展示だった。
ちなみに、ここ福山藩は日向守水野勝成が治めた地。「水野勝成が所有した『日向正宗』は借金のカタとして甥の徳川頼宣のところに渡った」……なんて話がパネルで紹介されていたりします。そのほか松井江への言及があったり、宗三左文字の話題があったり……コラボ自体はしてないですが、刀剣乱舞ファンにわかりやすいように配慮してくださってるなあと感じます。ワクワクして楽しい展示だったな〜!
展示は3月19日(日)まで!これまで江雪左文字を見たことのある人も、初めての人も、見て損はないのでご都合が合えばぜひお運びください。
ここまで読んでいただいてありがとうございました!
【お知らせ】
2023年3月19日(日)のHARU COMIC CITY 31に参加予定です!
「旅せよ審神者」と小説の既刊、あと2022年の旅で印象的だったものを小説の形に仕立てた、薄っぺらい本を持っていこうと準備中です。スペースは<東4せ12ab おいしいおこめ>でいただいてます。よろしくお願いします!