北斎サムライ画伝 すみだ北斎美術館

北斎と助広の「波」を見る すみだ北斎美術館『北斎サムライ画伝』2024年2月25日まで/東京・両国

わくわくお相撲さんランド・両国駅周辺。川沿いを歩けばスカイツリーが臨めるようなこのエリアに「すみだ北斎美術館」という小規模な美術館があります。

北斎サムライ画伝 すみだ北斎美術館

この美術館にて、北斎とその周辺作家による「サムライ」の絵にフォーカスした企画展「北斎サムライ画伝」を2023年12月14日より開催中。ここに刀も少し出るということなので、見に行ってきました!

北斎サムライ画伝

江戸時代に生きた北斎にとって身近な存在だった「サムライ」。実際に北斎が目にしていたであろう「江戸市中に暮らす太平の世のサムライ」のほか、歴史上の出来事を題材としたサムライの絵も、この時代にたくさん描かれてきました。この展示では北斎とその周辺作家の描いた「サムライ」の絵を通じて「江戸時代の人々が抱いていたサムライのイメージ」を知るとともに、「描かれるサムライ」に欠かせないものである「刀」の実物も見ることができます。

開催概要ページ

葛飾北斎『近世怪談霜夜の星』(Ebi(個人)所蔵) 「ARC古典籍ポータルデータベース」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/arc_books-Ebi0284)
葛飾北斎『近世怪談霜夜の星』(Ebi(個人)所蔵) 「ARC古典籍ポータルデータベース」収録

まず圧倒されたのが点数の多さ!前期・後期で入れ替えがあるので一気に見られるわけではないですが、この企画展で展示される作品は全部で171点です。半分だとして85点くらいは見たのかな?というのも浮世絵っていっこいっこが小さいものが多いので、それで展示室を埋めようと思ったら作品点数も多くなるわけです。なるほどね……

そしてさすが北斎専門の美術館なだけあって、1点1点にきちんと解説がついている。解説の「ここにこれが描かれていて……」というのを実物と見比べて確かめる、みたいな作業をすると結構時間がかかります。まあその辺はご自身の体力と相談して頑張る度合い決めていただければ、って感じ。

葛飾北斎 著,小島烏水 解説,芸艸堂出版部『富嶽百景 3編』(国立国会図書館所蔵) 「国立国会図書館デジタルコレクション」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/dignl-1068939)
葛飾北斎 著,小島烏水 解説,芸艸堂出版部『富嶽百景 3編』(国立国会図書館所蔵) 「国立国会図書館デジタルコレクション」収録

そんな中でも面白く感じたのは、サムライを判断する材料としてほぼ必ず「刀」が使われること。例えば江戸時代の街中のサムライを描いた浮世絵だと「二本差しをしている人物が見えます、これがサムライです。サムライも町人に混じって町中で外食したりしてました」みたいな解説があったりする。

そして当たり前ですが、刀の描き方もしっかりしています。現代のイラストレーターさんが刀を描くと「そこそうなってないんだけどな……」みたいなこともあるかと思いますが、(当たり前なんだけど、)北斎や北斎の弟子たちの作品にそういうのはない。「サムライが身近であり、そして刀も身近だった時代なんだ」と改めて思わされました。

そしてそれが特に感じられたのが、第3章「サムライの得物」の展示室。

↑こちらのツイート4枚目の写真が第3章の展示室の様子。第1〜2章は3階の展示室ですが、これだけ4階の展示室です。

『山水花鳥 早引漫画』

おもしれ〜なと思ったのが『山水花鳥 早引漫画』という作品。北斎の門人・為斎が絵を描いている冊子で、いろはにほてとそれぞれの文字から始まる絵がずらっと並んでいる。

そこに……

葛飾為齋 筆,安達吟光 筆,大島屋傳右衛門『早引漫畫 : 山水花鳥 初-4編』(神戸大学附属図書館所蔵) 「神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ貴重書・特殊コレクション」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/ukobe_s-R100000144_I000019111_00)
葛飾為齋 筆,安達吟光 筆,大島屋傳右衛門『早引漫畫 : 山水花鳥 初-4編』(神戸大学附属図書館所蔵) 「神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ貴重書・特殊コレクション」収録

しれっと来国行がいる。「蘭」とか「欄干」とか「らんぷ」とかに並んで「来国行」がいる。あいうえおの本に普通に載っちゃってる、刀鍛冶。つまりはそれだけ一般的だったってことですよね。

ちなみにこの3ページ後ろの「む」の欄には「宗近」がいます。

葛飾為齋 筆,安達吟光 筆,大島屋傳右衛門『早引漫畫 : 山水花鳥 初-4編』(神戸大学附属図書館所蔵) 「神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ貴重書・特殊コレクション」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/ukobe_s-R100000144_I000019111_00)
葛飾為齋 筆,安達吟光 筆,大島屋傳右衛門『早引漫畫 : 山水花鳥 初-4編』(神戸大学附属図書館所蔵) 「神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ貴重書・特殊コレクション」収録

まあ宗近は小鍛冶の能もあるし、まだわかるんですよ。来国行が出てくるんだ、というのは驚きでした。生活に刀があって、刀の物語も知っていて、専門書でもない一般の印刷物に名前が出てくる。そういう時代だったんだな。

刀剣類は3点展示

今回のお目当てである刀剣類は3点。「太刀 銘 信房作」「刀 銘 津田越前守助広/延宝九年八月日」「鑓 銘 兼定作」。前の2つは刀剣博物館の所蔵らしいけど、槍は特に明記がなかったので、おそらく館蔵なのかなと思います。

なんでこの3点なんだろう?と思ったんだけど、信房は平安〜鎌倉の古い時代の作、兼定は室町時代、そして助広は江戸時代。浮世絵でも描かれることの多い源平の時代、戦国時代、そして今回の展示で見た江戸の太平の時代。「浮世絵の花形」と重なるという観点でこのチョイスなのかな、とか考えました。正解は知らん。

そして助広は、この展示において特別な意味を持たせられている刀でもあります。

日本で育った人ならみんな知ってるであろう「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。これと、助広が創始した美術的な刃文「とうらん刃」をリンクさせているんです。江戸時代の2人のクリエイターが描いた「波」を見比べることができます。

……とか言いつつ、助広のとうらん刃って「浜辺」だし、「沖」の冨嶽三十六景とは波の種類がちげえと思うんだよな〜!!!まあそれはそれとして、太平の時代だからこそ花ひらいた「波」を見比べる、粋な展示だなって思います。

刃文 津田越前守助広 延宝三年二月日 井上真改 延宝三年二月日 大坂城代青山家 刀

津田越前守助広 延宝三年二月日 井上真改 延宝三年二月日 大坂城代青山家 刀(2021年12月、刀剣博物館で撮影)

これは今回展示されているのとは別の助広だけど、刃文の雰囲気は割と近いんじゃないかなと思います。延宝3年だから時代も比較的近いしね。助広、打ち寄せる波のような刃文でしょ?わたしこれが大好きです。

また「この信房は過去に見たことあったのかな〜」と思って自分のブログを見返したところ、別の信房かと思われますが、「夜の砂丘みたい」という言葉をあてていました。我ながら、なかなか良い表現だなと思います。黒々とした夜のような肌に、月明かりに光る白い砂のような刃文だった。

兼定の槍はかなり寝かせた感じでの展示。ですがそうすることで肌がかなり良く見えるようになっており、刀専門の美術館ではないですが、ちゃんと「わかる」人がセッティングしたんだな……と思いました。また寝かせてあるのでわかりにくいんですが、きっさきがなんだ、あの……ドキンちゃんみたいになってます。

鑓 銘 兼定作 北斎サムライ画伝 すみだ北斎美術館

しのぎに合わせて焼きを返してるんだよね……槍でこういうの見たことある?わたしは初めてだった。ドキンちゃん。展示室内に刀身写真がプリントされたでけえ布が垂れ下がってるので、そちらで確認してみてください。

北斎サムライ画伝 すみだ北斎美術館

そんな感じのすみだ北斎美術館、所要時間は2時間ほどでした。普段浮世絵をガッツリ見ることってないので、良い機会をいただけました!なお美術館のテーマ柄、外国からのお客さんやご老人グループなどもちょいちょいおり、お話ししながらご覧になってることも多いため、人の声が気になっちゃう方はイヤホンや耳栓などの準備をしておくと快適に見られるかなと思います。

展示は2024年2月25日まで。なおここからすぐ近くの刀剣博物館では、年始から「正宗十哲 -名刀匠正宗とその弟子たち-」展が開催されます。1月6日〜2月11日までの期間中は相互割引(片方の入場券を見せればもう片方を安く入れる)が行われるので、ぜひセットで遊びに行ってみてください!

刀剣博物館「正宗十哲 -名刀匠正宗とその弟子たち-」展との相互割引のご案内

ここまで読んでいただいてありがとうございました!このあとは(割引対象日じゃないけど)刀剣博物館行った。

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