銘仙展
今回はこちらも楽しみにしてたんです。企画展・銘仙展。
平成30年度に秩父在住の木村和恵氏より銘仙コレクションの寄贈を受けたことをきっかけに、令和2年に「お披露目」となる特別展を予定していましたが、新型コロナの影響で中止に。今回改めて開催された、そして「初お披露目」となる展示会です。なお木村氏から寄贈されたコレクションは、衣類だけでも517点だそう。管理も大変だ……
銘仙って?
先染めの、平織りの、絹織物のこと。関東の養蚕や織物が盛んな地域(秩父、伊勢崎、足利、桐生、八王子など)で発展しました。
「先染め」とは「布にプリントするのではなく、糸の状態で染めたものを織り上げる」ということ。
「平織り」とは一番シンプルな織り方のことで、お手持ちの洋服とかで裏地のあるものとかを見ていただくと、たぶんその裏地はだいたい平織りで作られていると思います。タテ糸とヨコ糸が一本ごとに交差するやつ。「銘仙」って名前も「目専」とか「目千」とかがそもそもの由来で、綿密な織物を意味する言葉でした。デパートが「めいせん売り出してこうぜ」ってなった時に「目千じゃだせえから」って当て字つけて「銘仙」になった、らしい。
「絹織物」も一応説明しておくと、シルクのことです。蚕の繭から出した糸で作る布のことだね。
……ってめちゃめちゃ初心者向けに説明してみたけれど、わたしも「銘仙」ってなんとなくしか知らなくって。「なんか色が派手な近代の着物で、かわいい柄を安価に作れたから当時すごく人気があって、ちょっと柄がボヤけてるのが特徴のやつ」って認識でした。今回しっかり定義を知れて楽しかった!
ということで、ここからは自分のお勉強ログも兼ねたレポートです。
ほぐし織
銘仙の一番基本的な織り方が「ほぐし織」。これを基本形として、さまざまな織り方が発展していきます。
今回高機(たかはた)も展示されていたんですが、この向かって左側。
タテ糸に先に模様がつけられています。これは綺麗に整えた糸を布の尺になるように綺麗に並べて、
こういった型紙で一色ずつ色をつけていく。版画と同じで一色につき一枚なので、使う色の分だけ型紙を必要とします。それを機織り機にセットして、ヨコ糸を通して織り込んでいくってわけ。
タテ糸にはこんな風に、ざっくりとヨコ糸が通してあります。
これはタテ糸がズレるのを防ぐためのしつけ糸みたいなもんなんだけど、織りながらタテ糸をちょっとほぐしてこの仮のヨコ糸を抜き取っていく。「ほぐし取る」の動作が入ることから「ほぐし織」と言われるんだって。
ほぐし織は「先にタテ糸を染めておく」ことから、縦方向にちょっとだけ柄がズレるのが特徴。またほぐし織に限らずだけど、型紙で染めてるから同じ模様の色違いが発見されることも稀にあるんだそう。
こちらが今回展示されていた「色違い」の例。制作から100年くらい経っているはずだから、こういった形で発見されるのはめちゃめちゃレアです。
併用絣
ほぐし織の発展系が「併用絣(へいようかすり)」。ほぐし織はタテ糸を先に染めるけど、併用絣はタテもヨコも染めちゃう。ヨコ糸をどうやって染めるの???と思ったんだけど、板などに糸をぐるぐる巻きにして、それに柄をつけて、ぐるぐる巻を解いて織っていくんだって。
タテ・ヨコ両方向にズレが生じるため、にじみみたいな立体的な仕上がりになるのが特徴。ちょっとルノワールみたいだよね、と思った。
ピエール=オーギュスト・ルノワール オリーヴの園 国立西洋美術館 自然と人のダイアローグ
半併用絣
タテは型紙で模様をつけ、ヨコ糸は部分的に染めて絣模様を出す技法。糸の束を括って、括った状態でドボンと染め液につけると、括ったところだけ色が乗らないでしょ?そういう「括り絣」を活用した模様で、1934年ごろ足利で開発されました。
わたしの中での「ザ・銘仙」ってこういうイメージだったな。それは山姥切国広関係で足利に行くことが度々あったから、そこで見た刷り込みかも知れないけれど。
緯総絣
緯総絣(よこそうかすり)はほぐし織の真反対の技法。ヨコ糸だけに模様をつける技法で、だから横方向にだけズレが生じます。xとyの話だな。
玉虫織
「玉虫織」はやり方としてはほぐし織や緯総絣と一緒なんだけど、違うのは「タテとヨコの糸を捕色や反対色にする」こと。こうすることで「角度によって別の色が見える」、玉虫色のような着物を作ることができます。
ほぐし織のところでご紹介した高機では11月末に機織りの実演が行われたとのことで、「別の色のヨコ糸で織ってみた」の箇所を見ることができます。ヨコ糸の色が違うだけでずいぶん雰囲気が変わるのです。
個人的には「玉虫織!あなた玉虫織っていうのね!」って感じでした。見たことはあったんです、でも名称は知らなかった(そして持ってもいない。なぜならこの光沢のせいでシワを誤魔化すのが難しいから)。
どれを着たい?の視点でめぐる
木村氏、本当に愛を持って収集していたんでしょうね。綺麗な状態の、そしてさまざまなバリエーションの銘仙が展示されていました。お勉強パートも良いけれど、「どれが着たい?」の視点で見るのも楽しかった。
「あそこの、下の左から2番目のやつ絶対得意な柄だな〜」←あんた似たようなやつばっかり着るよね
(キャプションには藤柄とあったけど、葉っぱの形が藤っぽくない気もする)
ちなみに「前列のは現代的な柄、後列の畳んで掛けてるのは古典的な柄で、さまざまなバリエーションがあることをお見せしたかった」とのこと。
似合うかどうかはさておき、これも好き。マリメッコっぽい。
「まあ現実的に着るとしたらこの辺だよな〜」と思ったものは「結婚後の、少し落ち着いた年齢の女性が着たであろうもの」と紹介されていた。まあ年齢的にはそうです。
現代に見る銘仙コーデって「柄 on 柄」の極みなので、まるっと揃えてからじゃないとやりにくいな〜という感じがある。そう、実は持ってないのです、銘仙。「派手かわいいの多いけどワンアイテムだと取り入れにくいなあ」と思っていたのですが、銘仙の定義を勉強できたので「落ち着いた銘仙」も発掘できるようになったかも。とはいえあんまり置き場もないので買うかどうかはまた別問題ですが……
まるっと楽しんだ埼玉県立歴史と民俗の博物館
と、お勉強&ファッション両面で楽しんだ銘仙展でしたが、実は時間がちょうど合ったので「学芸員による見どころ解説(30分)」にも参加しました。めちゃめちゃ満喫している。
そしてさらに、これまたちょうど良いタイミングで開催されていたので「学芸員によるバックヤードツアー(30分)」にも参加しました。めちゃめちゃ満喫している。記事冒頭で記載した「休館明けの時期」などはその際にお聞きしたものです。
そしてこうやってぽつぽつ挿入している写真がそうなのですが、常設展の展示も普通に楽しんだし。めちゃめちゃ満喫している。
関東圏の博物館、油断してるとしれっと太田道灌関係がある。
刀のページが出してあったのでまじまじ見ちゃった。
博物館に入ったのが12時くらい。終わったら15時だったので、うっかり3時間も居ちゃった。大規模な特別展でもなく、常設展は見慣れたものも多かったのに。めちゃめちゃ……満喫してしまった……。
そんな楽しい埼玉県立歴史と民俗の博物館ですが、度々お伝えしているように明後日(2022年12月5日)から長期休館に入ります。何度も来てる博物館だけど、休館前にたっぷり楽しめて良かったな。再開館を楽しみにしております。
謙信くんもコラボお疲れさまです。またここで会おうね。
ここまで読んでいただいてありがとうございました!
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イベントに出ます。「旅せよ審神者」と小説の新刊があります。